猫の甲状腺機能亢進症(ハイパーサイロイディズム)完全ガイド|症状・診断・治療・食事管理
10歳以上の猫に多い甲状腺機能亢進症の症状(食べても痩せる・多飲多尿・落ち着きのなさ)・診断方法・内服薬・食事療法・放射性ヨウ素治療の選択肢を詳しく解説。在宅での日常観察ポイントも紹介します。

この記事のポイント
10歳以上の猫に多い甲状腺機能亢進症の症状(食べても痩せる・多飲多尿・落ち着きのなさ)・診断方法・内服薬・食事療法・放射性ヨウ素治療の選択肢を詳しく解説。在宅での日常観察ポイントも紹介します。
猫の甲状腺機能亢進症とは
甲状腺機能亢進症(ハイパーサイロイディズム)は、10歳以上のシニア猫に最も多く見られる内分泌疾患のひとつです。首の両側にある甲状腺が過剰にホルモンを分泌することで、全身の代謝が異常に活発になります。
発症の仕組み
甲状腺は「チロキシン(T4)」「トリヨードサイロニン(T3)」というホルモンを分泌します。これらのホルモンが過剰に産生されると、体の代謝が過熱状態になります。原因の多くは甲状腺の良性腫瘍(腺腫)で、10〜15歳の猫の10〜15%が罹患するとされる非常に多い疾患です。
なぜ老猫に多いのか
明確な原因は解明されていませんが、食物中のヨウ素量・特定の化学物質への暴露・加齢による遺伝子変異などが関与すると考えられています。室内飼育の猫に多い傾向があるとの報告もあります。
甲状腺機能亢進症の症状
早期発見のために、以下の症状を定期的にチェックしましょう。
典型的な症状
食欲の亢進(食べても痩せる)が最も特徴的な症状です。「よく食べるのに痩せてきた」「いつも空腹そうにしている」という飼い主の訴えが多くあります。これは代謝亢進により消費エネルギーが激増するためです。
- 体重減少:最も多い主訴のひとつ。筋肉量が落ちてくる
- 多飲多尿:水をよく飲み、トイレの頻度が増える
- 落ち着きのなさ・攻撃性の増加:神経過敏になる
- 嘔吐・下痢:消化管の動きが亢進するため
- 被毛の乱れ:グルーミングが不十分になり毛並みが悪くなる
- 大きな声で鳴く:特に夜間に増える(認知機能低下と誤診されやすい)
見逃しやすいサイン
- 暑がる・涼しい場所を好むようになる(代謝亢進による体温上昇)
- 爪が伸びるのが早くなる
- 活動量が増えた気がするが実はイライラしているだけ
進行した場合
放置すると心臓への負担が増大し、心筋肥大・うっ血性心不全を引き起こします。また高血圧を伴うことが多く、網膜剥離や腎臓病の悪化につながる可能性があります。
診断方法
血液検査(甲状腺ホルモン測定)が確定診断の基本です。
- 総T4(tT4):最もよく使われる検査。正常値を大幅に超えている場合は診断確定
- 遊離T4(fT4):tT4が境界値の場合に追加検査として行う
- 総T3:参考値として測定されることがある
一般的な血液検査ではT4を含めないパネルも多いため、「老猫の定期健診でT4を測ってほしい」と獣医師に明示的に依頼することを推奨します。
身体検査では、獣医師が首を触ることで甲状腺の腫大(甲状腺腫)を確認します。
心エコー・血圧測定は心臓への影響と高血圧を評価するために行われます。
治療法の選択肢
甲状腺機能亢進症には複数の治療法があり、猫の状態・年齢・飼い主のライフスタイルによって選択します。
内服薬(チアマゾール・メルカゾール)
最も一般的に選ばれる治療法です。甲状腺ホルモンの合成を阻害する薬を毎日投与します。
- 効果:服薬2〜4週間で症状が改善し始める
- メリット:低コスト・効果が出るまでの試験期間として使える・副作用が出た場合に中止できる
- デメリット:毎日投薬が必要・錠剤が苦手な猫への投与が難しい・副作用(嘔吐・白血球減少など)のモニタリングが必要
- モニタリング:投与開始後2〜4週間後、その後3ヶ月ごとに血液検査
食事療法(ヨウ素制限食)
ヒルズ社の「y/d」という処方食は、ヨウ素量を極端に制限することで甲状腺ホルモンの産生を抑えます。
放射性ヨウ素治療(I-131療法)
放射性ヨウ素を注射し、甲状腺細胞を選択的に破壊する根治的治療法です。
- 根治率:90%以上と非常に高い
- 副作用:ほとんどない
- 制約:治療後2〜4週間の隔離入院が必要(放射線管理区域)・国内対応施設が限られる
- 費用:10〜20万円程度
外科的甲状腺切除
甲状腺を外科的に摘出する方法。放射性ヨウ素治療ができない場合の選択肢。麻酔リスク・副甲状腺への影響を慎重に評価する必要があります。
治療中・治療後の食事管理
甲状腺機能亢進症と腎臓病は密接に関係しています。甲状腺機能亢進症によって腎血流量が増加しているため、治療によりホルモン値が正常化すると隠れていた腎臓病が顕在化することがあります。
食事のポイント
- 高タンパク・高カロリー食:筋肉量の回復を助けるため、治療初期は高カロリー食が有効
- 水分摂取の確保:多尿によるミネラル不足を防ぐため十分な水分補給
- ウェットフードの活用:食欲がある場合でも、水分摂取量を増やすためウェットフードを積極的に取り入れる
- 腎臓の状態に応じた調整:治療後に腎臓病が判明した場合はリン制限食に切り替える
在宅での日常的な健康観察
定期的な体重測定が最も重要なモニタリング方法です。
週1回の体重記録:キッチンスケールで体重を測り、記録します。500g以上の変動が1ヶ月以内に起きたら受診のサインです。
毎日の観察ポイント
- 食欲・飲水量の変化
- 排泄の状態(多尿・下痢の有無)
- 活動量・興奮状態
- 毛並みの状態
年1〜2回の血液検査:治療中はより頻繁に、安定したら年2回程度の定期検査を続けます。
甲状腺機能亢進症は適切な治療で症状がコントロールできる疾患です。早期発見・継続的なモニタリングで、愛猫が快適な生活を送れるようサポートしましょう。