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猫の肥大型心筋症(HCM)完全ガイド|症状・診断・治療と日常ケア
猫に最も多い心臓病「肥大型心筋症(HCM)」の原因・症状・診断(心エコー)・治療法(投薬・血栓予防)・日常管理まで、ブリーダー・飼い主向けに詳しく解説します。猫の心臓病の中で最も多く見られるのが「肥大型心筋症(Hypertrophic Cardiomyopathy: HCM)」です。心筋(心臓の筋肉)が過剰に厚く…
この記事のポイント
猫に最も多い心臓病「肥大型心筋症(HCM)」の原因・症状・診断(心エコー)・治療法(投薬・血栓予防)・日常管理まで、ブリーダー・飼い主向けに詳しく解説します。猫の心臓病の中で最も多く見られるのが「肥大型心筋症(Hypertrophic Cardiomyopathy: HCM)」です。心筋(心臓の筋肉)が過剰に厚く…
猫の心臓病の中で最も多く見られるのが「肥大型心筋症(Hypertrophic Cardiomyopathy: HCM)」です。心筋(心臓の筋肉)が過剰に厚くなり、心室の容積が小さくなる病気で、進行すると心不全・肺水腫・動脈血栓塞栓症(ATE)などの深刻な合併症を引き起こします。本記事では、HCMの原因から最新の管理方法まで詳しく解説します。
肥大型心筋症(HCM)とはどのような病気か
心臓の主要な役割は全身に血液を送り出すポンプ機能です。HCMでは心臓の筋肉(特に左心室壁)が肥厚し、心室内の空間が狭くなることで、心臓が十分な血液を受け取ったり排出したりできなくなります。
HCMは猫の全体集団の約15%に存在するとされ、特定の品種では発症率がさらに高くなります。メインクーン(MYBPC3遺伝子変異が同定されており、成猫の約30%が陽性)やラグドール(別の変異型)では遺伝的なリスクが高いことが知られています。その他、バーマン・ブリティッシュショートヘア・ペルシャなどでも発症しやすい傾向があります。
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ブリちょく編集部
生体の飼育情報を専門に扱うブリちょく編集部。獣医療・繁殖の各分野を取材し、初心者にも分かりやすい記事をお届けします。
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発症は若い猫(1〜2歳)から現れる場合もありますが、中高齢(5〜7歳以上)での診断が多い傾向です。雄猫は雌猫に比べて重症化しやすいとされています。
症状と臨床サイン
HCMの怖いところは、長期間無症状で経過することが多い点です。多くの猫は診断される前まで日常生活に支障なく過ごしています。
無症状期:聴診で心雑音や不整脈が聴取されることがありますが、本人(猫)には自覚症状がありません。定期検診での偶発的発見がほとんどです。
うっ血性心不全期:病態が進行すると肺に水が溜まる「肺水腫」や、胸腔に体液が溜まる「胸水」が起きます。この段階では以下の症状が現れます:
- 開口呼吸・息切れ・努力呼吸
- 食欲不振・元気消失
- 腹部膨満
動脈血栓塞栓症(ATE):HCMの最も緊急性の高い合併症です。心臓内で生じた血栓が大動脈を塞ぎ、後肢麻痺・激しい疼痛・冷感・チアノーゼを引き起こします。「サドル血栓」とも呼ばれ、突然の後肢麻痺として現れることが多く、緊急治療が必要です。
診断方法
HCMの確定診断には心臓超音波検査(心エコー)が必須です。
心臓超音波検査(心エコー):非侵襲的に心臓を画像評価できる最も重要な検査です。左心室後壁・心室中隔の厚さ、左心房の大きさ、血流パターン(ドプラー法)を評価します。左心室壁厚が6mm以上(成猫)でHCMと診断されます。左心房の拡大はATE発症リスクの指標となります。
身体検査・聴診:心雑音(全猫の30〜50%に見られる)・不整脈の有無を確認します。ただし心雑音がなくてもHCMが存在することがあります(無音のHCM)。
胸部X線検査:心臓の大きさ・形状、肺水腫の評価に役立ちます。
バイオマーカー(NT-proBNP):血液検査で心筋ストレスのマーカーを測定します。スクリーニングや病態進行の評価に活用されます。
遺伝子検査:メインクーンとラグドールでは、既知の遺伝子変異(MYBPC3)を検査できます。陽性でも必ずHCMを発症するわけではありませんが、定期的な心エコーでの追跡が推奨されます。
治療と管理
現時点でHCMを「治癒」させる治療法はありませんが、進行を遅らせ、合併症を予防し、生活の質を維持するための薬物療法が行われます。
アテノロール(ベータ遮断薬):心拍数を下げ、心筋の酸素需要を減らします。特に左室流出路閉塞(LVOTO)がある場合に使用されます。
ジルチアゼム・アムロジピン(カルシウムチャンネル拮抗薬):心筋の弛緩を助け、心拍数を調整します。
クロピドグレル(血小板凝集抑制薬):ATEの予防に用いられます。左心房が拡大している猫に特に推奨されます。アスピリンも使用されることがありますが、猫には毒性があるため低用量かつ厳格な管理が必要です。
フロセミド(利尿薬):肺水腫・胸水の管理に使用します。胸水が重篤な場合は胸腔穿刺(胸水の除去)が必要となる場合があります。
ベナラプリル・エナラプリル(ACE阻害薬):神経体液性因子を抑制し心臓への負担を軽減します。進行例で使用されます。
日常管理と生活の質
HCMと診断された猫との生活では以下の点に注意します。
定期的な心エコー検査:症状がない段階でも6〜12ヶ月ごとの心エコー追跡が推奨されます。病態の変化を早期に捉えるためです。
ストレスの最小化:ストレスは心拍数増加・病態悪化につながります。静かな環境、引っ越しや来客時の配慮が重要です。
食事管理:ナトリウム制限食が推奨される場合がありますが、食欲の低下を招く場合は嗜好性との兼ね合いが必要です。タウリン欠乏は拡張型心筋症(DCM)と関連するため、タウリンを十分含む高品質なフードを選びましょう。
緊急サインを知っておく:開口呼吸・後肢麻痺・突然の元気消失は緊急受診のサインです。夜間緊急病院の場所と連絡先を事前に確認しておくことをお勧めします。
重点品種でのスクリーニング:メインクーン・ラグドールなどHCMリスクの高い品種では、1〜2歳から定期的な心エコースクリーニングを開始することが推奨されます。ブリーダーが遺伝子検査・心エコー検査を実施しているかどうかは、健全な繁殖の重要な指標です。
HCMは完治が難しい病気ですが、早期発見と適切な管理により多くの猫が質の高い生活を数年にわたって維持できます。定期検診の継続と、異変への素早い対応が長い共生の鍵です。ブリちょくでは遺伝病スクリーニングに積極的に取り組むブリーダーを探すことができます。迎える前に親猫の検査状況を確認することをぜひお勧めします。