重要なのは「毛そのもの」がアレルゲンではないという点です。抜け毛に付着したFel d 1が空気中に漂い、それを吸い込むことで反応が起きます。毛が長くても短くても、毛がなくても、猫はFel d 1を分泌します。「スフィンクスなら大丈夫」と誤解している方もいますが、無毛種でもアレルギーは起こりえます。
ただし、Fel d 1の分泌量には大きな個体差があります。最も確実に効いてくるのは性別と去勢の有無で、実測結果は次のとおりです(Ramadour ら 1998)。
性別・去勢の有無
Fel d 1(被毛上)
未去勢のオス
5.46 U/g
去勢済みのオス
1.28 U/g(約4分の1)
メスでは避妊の有無による差は出ていません。
一方、品種による差は確立していません。少数例の報告はありますが(後述)、2024年のレビューは「低アレルゲンの猫種に科学的根拠はない」と述べています。被毛の長さや色も Fel d 1 の産生量とは無関係です。
「アレルギーが出にくい」と紹介される主要品種
以下はそう紹介されることが多い品種であり、アレルゲンが少ないと確認された品種ではありません。根拠として引かれるのは、正常猫6頭と低アレルゲン種8頭を比べた小規模な報告(Satorina ら 2014。顔と胸で Fel d 1 が少なかった)程度で、品種名を挙げて比較した大規模な研究はまだ存在しません。
シベリアン
ロシア原産の大型猫。「豊かな被毛なのに Fel d 1 が少ない」として最もよく挙がる品種ですが、根拠は上記の小規模報告と飼い主の体感にとどまります。「反応が軽かった」という報告が多いのは事実ですが、個体差の範囲内である可能性も否定できません。実際に会って確認することが必須です。
バリニーズ
シャムの長毛種にあたるバリニーズは、「ロング・ヘアード・シャム」とも呼ばれます。「Fel d 1分泌量が比較的少ない」として海外でも紹介されますが、これも確立した比較データはありません。社交的で人懐こい性格が魅力の品種です。
オリエンタル・ショートヘア
細身でシャープな外見のオリエンタルは、短くなめらかな被毛で抜け毛が少なめです。ただし抜け毛の少なさと Fel d 1 の産生量は別の話で、分泌量が少ないという裏づけはありません。非常に活発で、犬のように人の後をついて歩く甘えん坊な一面もあります。
無毛(産毛程度)のスフィンクスは、抜け毛による散らかりがない分、室内を清潔に保ちやすいというメリットがあります。ただし前述のように Fel d 1 は皮膚と唾液から分泌されるため、毛が無くてもアレルゲンはゼロになりません。皮脂ケアのために入浴が必要な品種ですが、後述のとおり入浴によるアレルゲン低減効果は長続きしません。
品種選びより大切な「個体との相性確認」
「アレルギーが出にくい品種」とされていても、個体によってFel d 1の分泌量は大きく異なります。同じシベリアンでも、一方にはほとんど反応しないのに、もう一方にはひどく反応する、ということが起こります。
アレルゲン低減フード:Fel d 1 に結合する卵由来抗体(IgY)を配合したフードがあります。105頭を対象とした試験で、被毛上の「活性型」Fel d 1 が平均47%(範囲33〜71%)減少したと報告されています(Satyaraj ら 2019)。産生そのものを止めるのではなく被毛に移った Fel d 1 を不活性化する仕組みで、ゼロにはなりません。