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交配契約と種牡犬(スタッドサービス)|交配料の決め方・仔返し・不受胎時の取り決め
交配種牡犬契約書
自分の犬舎だけで繁殖を完結できるブリーダーはほとんどいません。血の更新や、狙った系統を入れるために、外部の種牡犬(しゅぼけん)を借りる、あるいは自分の牡犬を他犬舎の繁殖に出す場面が必ず出てきます。この牡犬の交配サービスを一般にスタッドサービスと呼びます。
ところが交配は、金銭と生体と血統登録が同時に絡むわりに、口約束で進みやすい取引です。「不受胎だったのに交配料が戻らない」「仔返しの選択順で揉めた」といったトラブルは、条件を先に文書化していないことが原因のほとんどを占めます。
この記事では、交配料の決め方と、契約時に必ず詰めておくべき項目を整理します。
交配料の3つの支払い方式
金額そのものより、どの方式で払うかを先に合意することが重要です。日本の犬のブリーディングでは、次の3つが使われます。
| 方式 | 内容 | 向いている場面 |
|---|---|---|
| 現金 | 交配時に金銭で支払う | 金額と時期が確定するので、双方にとって最もシンプル |
| 仔返し(子返し) | 生まれた子犬のうち1頭を種牡犬側に渡す | 牝犬側の初期負担を抑えられる。種牡犬側は結果に連動した報酬になる |
| 併用 | 現金を抑えて仔返しを組み合わせる | 高額な種牡犬で、牝犬側の負担を分散したいとき |
仔返しは「安く借りられる方法」ではありません。 産子数が少なければ1頭の重みは大きくなり、結果的に現金より高くつくこともあります。逆に種牡犬側から見れば、不受胎なら報酬がゼロになるリスクを負う方式です。どちらが有利かは産子数次第で変わるという性質を、双方が理解したうえで選んでください。
金額をどう決めるか
相場は犬種・血統・実績によって大きく変わるため、一律の目安を置くことに意味がありません。判断材料になるのは次の3点です。
- その牡犬の実績:展覧会のタイトル、産子の評価。実績が価格の中心的な根拠になります
- 遺伝子検査・健康検査の結果を開示できるか:股関節や眼、犬種特有の遺伝性疾患の検査済みかどうかは、価格の裏付けとして機能します
- 子犬の販売価格との釣り合い:生まれた子犬の想定販売価格に対して交配料が見合うかで、繁殖全体の採算が決まります。子犬の価格設定と合わせて考えてください
不受胎だった場合をどうするか
交配契約で最も揉めるのがここです。 交配しても妊娠しないことは珍しくありません。あらかじめ次のどれにするかを決めておきます。
- 次回の発情期に無償で再交配する(最も一般的な取り決め)
- 交配料の一部または全部を返金する
- 返金も再交配もしない
再交配とする場合は、さらに有効期限(次回のみ有効か、1年以内か)と、その牡犬が使えなくなった場合の代替(引退・死亡・移動時に同犬舎の別の牡犬で代替するのか、返金するのか)まで決めておくと安全です。ここを空白にしたまま1年後に持ち出すと、記憶違いの水掛け論になります。
産子数が極端に少なかった場合(1頭のみなど)の扱いも、仔返しを選ぶなら必ず先に決めてください。「1頭しか生まれなかったのでその1頭を渡す」となると牝犬側の取り分がゼロになります。
交配契約書に書いておく項目
書面は難解である必要はありません。次の項目が埋まっていれば、実務上のトラブルはほぼ防げます。
- 当事者:双方の氏名・住所・連絡先、犬舎名
- 対象犬:父犬・母犬の犬名、血統書番号、生年月日
- 交配日(複数日にわたる場合はすべて)
- 交配料と支払い方式:現金/仔返し/併用の別と、支払い時期
- 仔返しの詳細:頭数、選択の順番(種牡犬側が先に選ぶのか、牝犬側が先か)、引き渡し時期、性別の指定があるか
- 不受胎時の取り決め:再交配の有無・期限・代替犬の扱い
- 産子数が少ない場合の扱い
- 血統登録の分担:交配証明書欄への記入、父犬の DNA 登録の確認(下記)
- 健康状態の告知:交配前の検査結果の開示範囲
- 費用負担:輸送費、預託中の飼育費、獣医費用をどちらが持つか
血統登録の要件を交配前に確認する
交配契約とは別に、JKC の血統登録側の要件を満たしていないと、生まれた子犬の血統書が出せません。交配してから気づくと取り返しがつかないため、契約と同時に確認します。
- 父犬の DNA 登録:JKC では繁殖に使う父犬に DNA 登録が求められます。未登録の場合は交配後すみやかに登録します
- 交配証明書欄への記入:一胎子登録申請書には父犬所有者が記入する交配証明書の欄があります。交配に立ち会ったタイミングで記入してもらうのが確実です
- 父犬所有者への確認連絡:父犬所有者と母犬所有者が別人の場合、JKC は申請受理後に父犬所有者へ「交配確認通知ハガキ」を送って交配の事実を確認します。父犬側と連絡が取れる状態を保つことが前提になります
- 双方の名義:父犬・母犬とも血統証明書上の所有者であることが要件です。購入した繁殖犬の名義変更が済んでいないと申請できません
全体の順序は血統書発行の流れで時系列に整理しています。
自分の牡犬を交配に出す側の注意点
牡犬を提供する立場になる場合も、決めておくべきことは同じです。加えて次の点を意識してください。
- 提示できる材料を揃える:展覧会実績、遺伝子検査・健康検査の結果、過去の産子の写真と評価。これらが交配料の根拠になります
- 近親交配の制限を確認する:親子や同じ父母から生まれた兄妹の交配には制限があります。繁殖計画の段階で血統をたどり、近交係数も確認しておきましょう
- 数値規制との関係:飼養できる頭数には上限があります。仔返しで子犬を受け取ることを前提にするなら、数値規制の頭数上限に収まるかを先に確認してください
- 受け取った子犬を販売するなら第一種動物取扱業の範囲:仔返しで得た子犬を販売する場合も通常の販売と同じ扱いです
まとめ
交配契約でやることは、実質的に次の3つです。
- 支払い方式を先に決める(現金・仔返し・併用のどれか)
- 不受胎と少産のときをどうするか決める(ここが最頻出のトラブル)
- 仔返しなら選択の順番を書面に残す
そのうえで、父犬の DNA 登録と交配証明書欄という血統登録側の要件を交配前に確認しておけば、子犬の血統書が出せないという最悪の事態は避けられます。